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ライター今泉愛子のブログです
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女の執念が燃え尽きる時
 新月譚
貫井徳郎
文藝春秋
2205円

じつは、貫井さんをひそかに応援しています。
がんばれ〜って。
地道なコツコツ感がいいんですよね。
華やかさには欠けるのですが、しっかり丁寧に書いている感じがします。
それから、作家の「自我」のような突っ張りをほとんど感じないんです。
まったくの黒子に徹している。
そこがすごいと思っています。

この作品は、ミステリではありません。
物語は、ある若手編集者が女性作家、咲良怜花(さくられいか)のもとを
訪れるところから始まります。
8年前に筆を折った彼女に、何とか執筆を依頼できないか。
編集者はそんな想いを胸に秘めているのですが、
彼女が語り始めたのは、断筆に至る、彼女の半生というもの。
誰もがびっくりするほどの美貌の持ち主だという女性作家に
何があったのかーー。

彼女の本名は、後藤和子。
平凡な名前にふさわしい平凡な人生を送ってきました。
彼女の転機は3つあります。

ひとつは、作家になった時。
ひとつは、作風が大きく変わった時。
ひとつは、筆を折った時。

この3つに大きく関わるのが、木之内徹。
この男のために、作家になり、
この男のために、作風が変わり、
そして、筆を折ってしまう・・・。

すごくヘビーなお話です。
女の情念ですね。
男性作家が描く女性って、「それは男の願望だな」と
思えるような描写がよく出てきます。
女性に取っては違和感があって、
そこで、そうしないでしょと突っ込みたくなるような。
でもこの作品にはそういう場面が一切ない。
貫井さんって、作家の気配を見事に消せる方なんだなと
感心します。

さて、ここからはわたしの感想です。
これからこの作品を読みたいという方には、おすすめしません。



彼女はなぜ平凡な人生を送ってきたか。
並以下のブスだったからです。
教室でも職場でも、人から親切にされません。
ものすごい鬱屈を抱えていたわけですが、
木之内は、そんな彼女を「いい」と言うんですね。

もちろんその「いい」は、本心です。
が、いかんせん彼は飽きっぽい。
いろんな人を好きになる。

彼が去ってしまった時、彼女は整形手術を決意するのです。
人生を変えたい。
その一心だったのですが、美人になった途端周囲の反応が変わることに
ショックを受けます。
再就職はすぐに決まり、社内で「今度入ってきた子は美人だ」と噂になる。
これまで、そんな経験をしたことがなかった和子は驚く。

ところが、次第に女性からは妬まれるようになります。
これまでは、蔑まれる人生だったのに、それが妬みに変わる。
どっちもどっちですね。
ちやほやしていた男性たちも、女性たちの嫌悪感にビクビクして
手を出さなくなる。

結局、自分を本当に愛してくれる人はみつからない。
その時にはっと気付きます。
木之内は、私の容姿を気にしたことはあっただろうかーー。

がーんです。
もう自分は別人のような姿になってしまった・・・。
でもやっぱり木之内が好き。
あの人は私のことを「個性がある」とほめてくれた。
その気持ちにすがりたくなる。
そこで小説を書き始める。

作風が変わったことも、筆を折ったことも、
木之内が関係します。

なんだかしみじみ泣けちゃいます。
だって、あの時代に自分のことをいいと言ってくれたのが
木之内だけってことは、
もう彼以上の男は、見つからないということです。
そりゃあ執着しますよ。

この2人は、ずるずると関係を続けるけれど、
結婚はしないんです。
木之内のほうだって、彼女のことを認めているはずなのに。

そこは本当に、微妙なところで、
結婚には結びつかない、だけど互いに惹かれあう男女関係って
あるのだな、と。
和子はものすごく自我が強い。強情というのでしょうかね。
だから作家にもなる。
木之内にしたら、彼女と結婚してともに家庭を作るなんて考えられない。

よく男の人が女性をふる時に、
「君はひとりでも生きていける」という言葉を吐きます。
これって、若い頃は、偽善だ〜!と思ったりしましたが、
和子の場合は、そういうタイプですね。
でもおそらく木之内は、そういうひとりでも生きていけるタイプ、
だから和子を好きになったんでしょうね。
互いに、独立している男女としての付き合い。

もちろん和子は、情念の濃い女なので、彼を失うとものすごく
じたばたするんですが、ちゃんと作家になったりしますから、
結局は「ひとりで生きていける」女なんです。
そういう部分が、付き合っていると見えちゃうってことでしょうか。

ただ、女として考えた場合は、戦略が足りないんです。
おばさんとして言わせてもらうと。
そこを男にばらしちゃダメなんですよー!

たぶんうまくやる女性ってのは、細心の注意を払って、
その部分を隠します。
和子は、女としてはツメの甘いタイプかな。

この作品は、女の業と作家の業を描いています。
作家の方の咲良怜花もまたすばらしい粘りを見せます。
そこも読み応えがある。

面白い作品でした。
これを男性作家が書くのは、すごいことですね!
貫井さん、今後もがんばってください。
直木賞もぜひ!
posted by 今泉愛子(詳細はクリック) | 13:28 | 書評 | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
この本のこと、地元紙の日曜版に載っていました。
こちらでaikoさんの書評を読んでいたので、その方が伝えたいこともよくわかりました。

アドレスを入れました。
またいつ消えるが分からないけど、だから。
2012/06/25 23:32 by
轍さん、ありがとうございます。
拝見しました。
お元気そうでよかったです。

そういえば、このブログのデザイン、
昔のサイトと近いな、と思いました。
2012/06/27 11:17 by れん
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