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ライター今泉愛子のブログです
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心の中にひそむ異界
 ダンス・ウィズ・ドラゴン
村山由佳
幻冬舎
1575円

この本を読んで、自分は「異界もの」が好きだと気付きました。
春樹様の『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』のいるかホテルや
小川洋子さんの『薬指の標本』の標本室というのはある種の異界だと思うんです。

これらの小説をひっくるめて「異界もの」というのは気が引けますが、
個人的には、そこがツボ。

この小説の異界は、井の頭公園の奥にある、夜だけ開く図書館です。
日常から一歩足を伸ばしたところにある不思議な空間。

そこに勤務することになったオリエは、
スタッフのスグルから仕事を教わります。

ところが、書棚ごとの分類は覚える必要がないとスグルは言います。
なぜなら書庫が変化するから。
日本の小説はここ、というように書棚が決まっているわけではないんです。
ではどうやって本を探すのか。
自分の感覚を疑わずに探す。
それだけなんです。
それで見つかる。

暗示的ですね。

スグルはさらに説明します。
そもそもは探す必要はない。
図書館が、あなたに必要なものを差し出してくれる。
だからただそれを受け取るだけでいい。

うーん。この感じ、すごく好きです。
これは人生を象徴しているのではと思いました。
どうやって答えを見つけるのか。
誰かが教えてくれるのでも、本に書いてあるわけでもない。
自分の感覚に素直になる。
「あれはやりたくない」と思えばやらなくていい、わけです。

でもそもそも、人生では、必要な物は必要な時に差し出されますよ、と。
その感覚を信じられなくなるから、あれこれじたばたとしてしまう・・・。

そんなことを言われているような気がしました。

物語は、ここからどんどん発展していきます。
オリエの過去。
スグルの心の傷。

ここからが村山さんの真骨頂ですが、
わたしは、この「異界設定」にずっぽりはまって、
あまり大きな事件は起きてほしくない感じもしたんです。
つまり激しさよりもそのまま静けさが続いてほしいと。
でも、私の気分とは裏腹に、物語はどんどん心の中を侵略してきます。
土地の言い伝え。伝説。
ゆらりゆらりと漂っていると、強い力でぐんと引きつけられるエピソードが。
ううーすっかり引きずり込まれてしまいます。
わたしは、ゆらゆらと漂っているほうが好きなのに〜。
そこが村山さんの力のなせる技でしょうね。

村山さんがこんなタイプの小説をお書きになるとは!!
「異界もの」を村山さんが手がけるとこうなる。
春樹様、洋子様とはまた違ったトーンの「異界」でした。

私自身が妖精に興味があるのは「見えない世界」のことに興味があるからです。
妖精は存在する! と思っているのではありません。
そこはいつか上手く説明したいんですけど。

この小説からも
「見えないものを信じよう」「目に見えないところにこそ真実がある」
そんなメッセージが届きました。

これまでの村山さんの小説とは、ちょっと違うトーンを
ぜひ味わってみてください。

ちなみに、幻冬舎から出ている『アダルト・エデュケーション』と装丁が
似ていますが、ぜんぜん違うタイプの小説です。
あちらは短編集ですしね。
個人的にはこちらを推しますよー。


posted by 今泉愛子(詳細はクリック) | 11:50 | 書評 | comments(0) | trackbacks(0) |
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