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ライター今泉愛子のブログです
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妖精の輪の中で
 妖精の輪の中で〜見えないものを信じながら
井村君江
筑摩書房
1260円

井村君江さんは、日本の妖精学の第一人者ですね。

私は、昨年の夏、フィンランドとイギリスに行きました。
テーマは「妖精」です。
妖精への興味を、人に理解してもらうのは難しいんです。
でも、簡単に言えば、このタイトルにある「見えないものを信じる」ってことですね。

この本は、井村君江さんの半生記です。
幼い頃のこと、学究生活、イギリスでの暮らしなどが書かれています。

井村さんが妖精に興味を持ったのは英文学を専攻していた頃のこと。
ロマン派詩人コールリッジの詩を読み解くうちに、
目に見えないもの、妖精が大きな役割を持っていることに気付いたとか。

その後、45歳のときに英国留学。
英国の妖精学の権威(とわたしが思っている)
キャサリン・ブリッグズの指導も受けたそうです。

読んでいると、井村さんご自身も、なんでしょうね、
俗世にひたりすぎていない、いい感じが漂います。

この本を企画していた1999年に、井村さんは脳梗塞で倒れ、
左手、左足が麻痺してしまったとか。
病後で、これは語り下ろしという形で出版にこぎ着けたようです。
文章は、若干うまく整理されていない部分も感じられるのですが、
何かを極めた一人の女性の生き方を知るのは、すごく面白いです。

私が「妖精」に興味があるのは、人生には、見えない何かが作用している、と
考えるのが好きだからです。

井村さんのこの本を読んでいても、井村さん自身がそうした考え方をなさる方だと
感じます。
ご自身の病気についても、イギリスの民話を例にあげて納得されている様子。
その民話とは、行方不明になった農夫が発見された時、
彼は妖精の輪の中で踊り続けており、足の指がすりへってなくなっていた、
という内容です。
私も妖精の輪の中に落ちて、夢中で踊り続けていたのかもしれません、と。

妖精は必ずしも、人を幸福にするわけではないんです。
怪しくて、意地悪な面もいっぱい持っています。
でも「あ、妖精に意地悪されちゃったな」と思えば腹も立たない・・・ってことは
ないかもしれませんけど、「ま、いいか」って。

面白かったのは、井村さんが連帯保証をした相手が行方不明になり、
借金取りに追われた時、助けてくれたのが、水木しげるさんと荒俣宏さんだったとか。
妖精を妖怪たちが助けるような・・・。

ご苦労もたくさんあったと思います。
幼い頃は、寂しい想いをなさったのかもしれません。
でも、そういう見えないものを信じることで救われた部分があったでしょうね。

井村さんは現在生まれ故郷の栃木県で暮らしておられるそうです。
宇都宮には、井村さんが名誉館長を務める、妖精ミュージアムがあり、
井村さんのギャラリートークも行っています。
6月は、私も大好きな、シシリー・メアリー・バーカーについて。
私も参加して大いに楽しませていただき、
帰りに、この本を購入した次第。
来月もあるそうなので、また行ってこようと思います。

posted by 今泉愛子(詳細はクリック) | 10:25 | 書評 | comments(0) | trackbacks(0) |
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