このところ毎日取材が入って、都内を行ったり来たり。
体力を消耗するのはもちろんですが、一日をうまく使えない。
かつては、そういう生活の中で、あれもこれもと欲張って、
スケジュールを立てていたのに、どうしたことか・・・。
機動力が落ちているのかな。
とりあえず、今週は落ち着きそうです。
取材の往復時間などに、読んだのがこちら。
当事者の時代
佐々木俊尚著
光文社新書
3月16日発売で、
私は、発売日にJR新宿駅構内の書店で買ったのでした。
まずは、読み始めてすぐに、これは新書じゃない〜!
と思いました。
新書はさらさらと読める、
という思い込みを見事に裏切る重量級の本です。
厚さはもちろんですが、論理展開も緻密なので、
適当に飛ばしながら読むことは許されない感じ。
たくさんのエピソードを最後にがっつり回収する手腕はさすがです。
この話とこの話がこう繋がるのか! という瞬間は、
自分の中の知性がぴきぴきと音を立てて成長したように感動的。
なので、がんばって最後まで読み通すことをお勧めします。
当事者とは、何でしょうか。
私が、子どもを育てていてよく違和感を持ったのが、
「子どもがかわいそう」というお母さんたちの感覚です。
かけっこで順位をつけることを「子どもがかわいそう」と言って
止めようとするお母さんがいるんです。
お遊戯会でも、居残り学習にも、
「子どもがかわいそう」論理は登場します。
でも、それって本当に子どもはかわいそうなのかな、と
よく思いました。
子どもって、大人が思うほど弱くはありません。
困難を乗り切るだけの知恵も勇気も十分に持ち合わせています。
なのに大人は、それを発揮する場面を制限してしまう。
話がそれました。
佐々木さんが本書で言っている「マイノリティ憑依」とは、
こういうお母さんのようなパターンでしょうか。
弱者の立場を代弁しているだけなのに、代弁しているという自覚を持たない。
自分自身を正義の人だと思っている節すらある。
これって非常にイタいです。
でもこのイタい症状が日本に蔓延しているんです。
「弱者」という立場から、声高に正義を発信する。
佐々木さんは、日本で、このマイノリティ憑依が勢いを持った背景を
丁寧に解説します。
がっつり読んでいると、頭が痺れてきます。
ある意味、理解しようと意気込まなくてもよいかもしれません。
とにかく、前へ前へと読み進めましょう。
マイノリティ憑依ってのは、わたくしが解釈するには、
「先生、花子ちゃんが男子にくさいって言われて泣いています!」と
言いつけにくる女子的立ち位置ですかね。
自分もじつは花子ちゃんをくさいと思っていたことはおくびにもださず、
かわいそうな花子ちゃんをかばう、立派な女子という立ち位置を
確保していばる。我こそは正義って。
本を読んでいると、あれも、これも、といろいろ思いつくんですが、
佐々木さんは、そうした立ち位置を一刀両断。
引用します。
本来われわれは絶対者ではない。絶対的な悪でもなく、絶対的な善でもない。
その悪と善の間の曖昧でグレーな領域に生息している。
しかしそのグレーな領域で互いの立ち位置を手探りでたしかめている状態、
その状態こそが当事者である。
「くさい」と言った男子に悪者のレッテルを貼り、
自分はとっとと「いい人」の側に立つだけでは、問題は解決しません。
そもそも物事は、そういうシンプルな造りではないんです。
もし花子ちゃんが臭うことに気付いていたら、それを指摘してもいい。
「お風呂、入った方がいいかもよ?」
善でも悪でもない立場から意見を言うことの
大切さを、佐々木さんは説いています。
「マイノリティ憑依」を率先したのはメディアだと佐々木さんは述べます。
弱者目線から、大きなもの、強いものを叩く構図ですね。
でも、記者は弱者なのか?
ちがいます。
弱者という立場を借りて、記事を作っているだけ。
でもこうやって、弱者と強者が対立している限り、
本質が見えてこない気がします。
先の例でいうと、花子ちゃんはなんで臭いの?ってことの
解決策が見えてこない。
そこを突き詰めれば、花子ちゃんは家で虐待されていることが
わかるかもしれません。
なのになぜかそれを避けて、目の前の善か悪かを騒ぎ立てて
悪者を退治して解決、と思い込む。
「当事者」という立場を自覚するのは、ある意味しんどいです。
フレームがないから、どう考えればよいかがわからない。
ふらふらしちゃうんですよね。
グレーな位置にいると、ものすごく細かい思考を要求されます。
単純に、賛成! ではありませんから。
でも、この「当事者」という自覚。
すごく大切だと思いました。
今のマスメディアや日本で展開する議論のなかにある
閉塞感の正体を、論理的に明かしていく姿勢は脱帽!なのですが、
正直、ちょっと難しかった。
だけど、う、わかんないとなってもめげずに読めば、
必ず最後に果実を手にできると思います。