決断という技術
柳川範之・水野弘道・為末大
日本経済新聞社
1680円
昨日書いた通り、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』を
読んでいて、いったい私たちの社会ってどうなってるんだろうと
衝撃を受けたんです。
危機に瀕した時、失敗を犯した時に、ここまで何もできないってどういうこと?って。
『採用基準』で、欧米流のリーダーシップの考え方を知り、
主体的に問題を解決しようとする能力が決定的に欠けているんだと思いました。
そしてリーダシップに不可欠なのは、何かを決断すること。
この本のよいところは、決断という「技術」を
しっかりと3人で語りあっているところです。
ただ自分たちの経験をもとに、
情緒的に「決断は大事ですよ」と啓蒙するだけではない。
3人のプロフィールも面白いんです。
柳川さんは経済学者、水野さんはロンドン在住の投資家、
為末さんは当時、米国に拠点を置くアスリート。
それぞれ異なる環境の中で決断してきた人たちなんですよね。
本の中に、「決断」のハードルが高いのは、
あらゆる情報を集めて、絶対に正しい決断を行わなくてはならないという
思い込みがあるからとあったんです。
だから、まだ「情報が十分に集まっていないから決断すべきじゃない」と
先送りしてしまう。
決断するよりも正解を探そうとしてしまうのかも。
面白いなと思ったのが、
日本では「決断」に情緒的要因が入ることが多いということ。
水野 海外の会社に転職して聞かなくなったなあと思うのは、「反対を押し切って」という言葉です。そういう英語すら思いつかない(笑)。
決まったら、その決定事項については、全員が等しく責任を負うんです。
提案者は、反対者に対して責任を負うわけではない。
でも日本ではわりと多いと思います。
渋々賛成したという態度を取り続ける人。
たとえば、地震が起きて津波の危険があり、避難するとなった時、
教師からいろいろな意見が出たとします。
「山に避難しよう」「小学校に待機しよう」「地区センターに避難しよう」などなど。
みんなの反対を押し切って、山に避難した場合、山を主張した人には、
「特別な責任」が生じる。
失敗したら切腹ものだぞ、という半端ないプレッシャーがかかるんです。
その前に、山以外の選択肢を提案した人は、
山を提案した人に詰め寄るかもしれません。
「責任は取れるのか?」って。
でもこの場合大切なのは、「決断を先送りしている場合じゃない」と
全員が認識して、答えを出すことなんです。
「山へ逃げて何かあった場合、君が責任を取るんだよね?」と
言質を取ることではなくて。
その場合、決断した時点で、
全員がその方法で成果を出せるよう努力します。
「渋々」協力してやるか的な態度をとるのは幼稚すぎます。
これと似たような話は、『採用基準』にも出てきます。
本来のリーダーとは、「チームの使命を達成するために、必要なことをやる人」です。
プロジェクトリーダーである自分の意見より、ずっと若いメンバーの意見が正しいと考えれば、すぐに自分の意見を捨て、その若者の意見をチームの結論として採用するのがリーダーです。
答えを出す前には徹底的に議論する。
そして答えを決めたら、全員一致でそれに向かう。
仮にそれで失敗したとしても、
全員が「納得」して決めたのだから、提案者を責めない。
責めないけれど、なぜこの判断をしたのかは、検証する。
「お前が悪い」「どう責任を取るんだ」と責めるのではなく、
なぜその提案が一番いいと思ったのか。
どんな要因を見落としたのかを明らかにして、
次の決断に役立てる。
このあたりのプロセスは、欧米の企業はとても合理的だと思います。
柳川 決定の場面で、精神論や感情論が専攻するというのも日本の大きな特徴で、
これは小学校のときから、読書感想文等で情緒的なものを優先的に扱うという、そのあたりに根っこがある気がいつもしているんです。
これもまた日本的な決断思考の指摘です。
たとえば、自分の命を引き換えにして犬を助けたという行為を
「とても偉いと思いました」と書くと評価されるけれど、
「合理的な判断ではないと思います」と書くとダメ。
論理的に物事を追求することよりも
情緒的に寄り添うことをよしとする。
水野 日本でリーダーに求めるものは何かと言ったら、みんななんといいますかね。決断力?
柳川 決断力と言うんだけど、実際選ばれている人は、コンセンサス作りのうまい人ですよね。全体の浮かび上がってくる「空気」をうまく吸い上げるなり、それを収束させるのを手助けするという役割ですね。
何かを決める時に、あとにしこりを残さない決め方ができる人。
これって、成果に対しての責任よりも、
人の気持ちに対する責任を重視しているということなんだと思います。
なぜ議論ができないか。
なぜ決断に文句を言うのか。
それは、自分もリーダーであるという自覚がないから。
いま、どんな成果が求められているかがわかっていないんです。
自治会やPTAなどで、時々恐ろしく不毛な議論が交わされることがあるのですが、
それって、たいがい「最終的にひとつの結論を出す」ことを
認識していない人が延々と自説を繰り広げる時に起きます。
この本では、なるほど「決断」って技術なんだ、
と思いました。
ゴールに向かって何が一番合理的かを思考し、決断する。
その技術って、ビジネスだけでなく、人生に役立つと思います。