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ライター今泉愛子のブログです
仕事は、上手い選手権ではない
ライターになるには、文章が上手くなくてはいけない。
歌手になるには、歌が上手くなくてはいけない。
料理人になるには、料理がうまくなくてはいけない。

たしかにそうなのです。
プロとして成立させるためには、最低限のレベルは必要でしょう。
だけど、覚えておきたいのは、仕事は「上手い選手権」ではないということ。

あいつよりオレの方が上手なのに、というつぶやきをよく耳にします。
あいつなんて大したことがないのに、なぜもてはやされるのか。
なぜ自分じゃないのか。
 
文章だったら私の方が上手いのに。
たまたま運がよかっただけじゃん。

歌だけの勝負なら負けないのに。
うまく流れにのっちゃってさ。

あいつの料理なんてマズくて食えないよ。
料理じゃなくてアピールが上手いだけだろう。

そういう思いを抱えたまま、うまく消化できない人が大勢いらっしゃる。
でも仕事は、上手い選手権ではありません。

「その仕事を私にやらせてください」という姿勢がまず必要。
「あなたの才能は素晴らしい。ぜひうちで本を出しましょう」と
言われるのを待っていてはダメなのです。
自分は何もしないくせに、頭を下げて仕事をとりにいった人を蔑んでちゃダメ。
「どうせ色仕掛けよ」と妬むなら、色仕掛けよりもっと効果がある仕掛けを考えて
実践するしかありません。
 
ライター業でいうなら、一旦ライターとして仕事がまわりはじめたら、
「文章が上手い選手権」だという意識は捨てた方がいいと思います。
自分は文章が上手いのかどうかばかり気にしていては、仕事が進みません。
他人の評価が気になって、些細なことで落ち込んだり、あるいはうれしくなったり、
メンタルが安定しません。
 
仕事という土俵では、上手い人たちのなかで勝負するわけで、
何が自分の個性なのかってことです。
レストラン評論、自動車評論、音楽評論など、ジャンルを絞って勝負していくのか。
それとも「何でもやります」というスタンスでいくのか。
「インタビューが得意です」とアピールするのか。
正直、私の場合は、個性がないところが個性だと思っています。
だから使い勝手がいいという部分も大きいと思います。
 
繰り返しになりますが、仕事は、上手い選手権ランキングで決まるわけではないのです。
たとえば、料理人としてテレビ出演のオファーが来たとします。
カメラの前で、5分くらいで料理を完成させるという内容。
そこで「5分じゃおいしいものは作れません!」と突っぱねたら、
はい、仕事終了。
どうすれば5分で視聴者を満足させるものが作れるかを考えるのが仕事なわけですから。
 
ようやく特色のあるドレッシングであえるサラダを提案したら、
「最後にぶわっと火を入れるシーンがあると盛り上がると思うんです」と
プロデューサから言われる。
「最初に言えよ!」と怒っていたら、これまた仕事にならない。
「わかりました」とまたイチから考え直す根気強さが必要なわけです。
ようやく考えて、収録の日が来ました。
「シェフ、そこ、カメラが右から入るんで、フライパンを左手で持ってください」
と指示がとぶ。
「オレ、右利きなんで」とつっぱねていたら、画面が盛り上がりません。
火事場の馬鹿力でもなんでも振り絞って、左手でフライパンをふらなくてはならないのです。
それが、仕事。

極端なことを書いておりますが、
仕事って、ニーズにいかに答えるか、なのです。
自分の想いをただ文章にまとめて、自分の文章を読んで欲しいと言ったところで、
誰のニーズにあっているのか。
書きたいなら書けばいいけれど、他人の賞賛を求めても、それは他人の自由の範疇です。
他人の賞賛で、自分の評価を決めてしまうと、
他人の賞賛が得られる土俵でしか、仕事をしない傾向も出てきます。
新しい仕事にチャレンジできなくなるのです。
ずっと井の中の蛙でいるのもいい。
だけどもし「認められたい」と思うなら、
まずは「認められたい」意識を捨てて、主体的に他人のためになるポジショニングをとる。
主体的にというのが大切で、他人に褒められたいために自分を犠牲にする、ではダメ。
自尊心が保てません。

そこが本当に難しいところです。
でも「なぜ自分は認められないのか」という葛藤があるなら、
まずは自分の価値を、俯瞰してみることです。

すごく昔にある女優さんをインタビューした時に、
「私って、美人じゃないじゃないですか」とおっしゃったことがありました。
私は、何と相づちを打てばいいのかと戸惑いましたが、
そこから続いたお話は、どうやれば自分が生き残っていけるかと
徹底的に考え続けたこと、それがようやく実りはじめたという内容でした。
30代になって、美人選手権から降りたところから、
彼女の新たな勝負が始まったわけです。
 
自分をどんなふうに扱うかが大切なんです。
他人が自分をどう扱うか、ではなくて。

 
posted by 今泉愛子(詳細はクリック) | 09:35 | 仕事 | comments(2) | trackbacks(0) |